【天皇賞(春)】回顧と怪文書 掘り起こされた10年前と14年前
クロワデュノール周りで感情が動かされ続けた一戦だった。
そもそも大阪杯の戦前からクロワデュノールの騎手周りはきな臭い話が多く、今回の天皇賞(春)にしたって、あえて距離の長いところに出走することでクロワデュノールを負けさせ、その責任を北村友一騎手にとらせようとしているんじゃないか、という与太話も出るレベルだった。
あっても不思議はないが、確証はない、といったところだ。個人的には否定的な側。仮にそうだとしたら救いようのないクズ選択だな、と思うが。
大阪杯戦前後の騎手周りの考察は大体ここ。これに関しては実際そうだったんだろうなと思うし、大阪杯直後の北村友一騎手の勝利インタビューから鑑みても、陣営に対して「人として許せないし、馬にも人にも失礼すぎるからさっさと馬産から退いてくれ」の気持ちしかない。
記事内容は要約すると、馬にも人にもリスペクトがないから、論外だな、て話である。
何にしても馬産の世界は実力至上主義。結果を残さなければいけないのはその通りだ。
となれば、北村友一騎手は負けられない。負けたらあんな人間のクズどもの思い通りになってしまう。
だからここは勝つしかなかった。
私にとっての今回の天皇賞(春)の焦点は、クロワデュノールは距離が持つかとかいうクソどうでもいい低次元な話ではなかった。そもそもこの馬は距離をこなせるという見立てだった。
それよりもクロワデュノールと北村友一騎手が勝利し、このタッグの強さを勝利とともに証明できるかにあった。
その上でレースを回顧していく。
レース直前 降雨は誰に味方するか?
今回の私の予想では、◎アドマイヤテラ、〇クロワデュノールだった。
これだけ言った割にクロワデュノールを本命としなかったのは、距離はこなせるクロワデュノールと、この部門のスペシャリストになりうるアドマイヤテラには適性の差があると見ていたからだ。
当然クロワデュノールが勝つ可能性は高いと見ていたが、あくまで距離はこなせるレベル。決して適性があるとまでは思っていなかった。総合力の高さでなんとかできる、てだけだった。
だからより適性のあるアドマイヤテラを上にとった。ただ、この馬は馬場が渋ると割引とも見ていた。
果たして雨は降った。10R直後からそこそこ降りだし、正面スタンド前では傘を差す輩が出る始末だった。これに関してレース前に閉めるなら百歩譲っていいが、できれば控えていただきたいところだ。
馬のそばで傘を開け閉めするのはタブー。まあ、GWで初めて競馬場にくる方や初心者は知らなくても不思議ないが、周りを見て察してほしいものでもある。せめてレース中はねぇ……。
話を戻す。
おそらく馬場的には稍重まではいかないまでも、ノメっても(上滑りするような状態の馬場で、脚をとられること)不思議はないぐらいに馬場は湿ったはずだ。
そしてパドックの評価はこちら。

大阪杯時点でもいい馬体をしていると思ったが、今回現地で見たクロワデュノールの馬体は、父キタサンブラックからケツの肉をそぎ落としたような形に見えた。だいぶ似てきたのではないかと思う。この時点で想定通りの決着になるだろうと見ていた。
レース、道中
ゲートはほぼ横一線。一目散に逃げていくのは大衆の予想通りミステリーウェイだった。この馬は昨年からブレイクし始め、自分のペースで逃げる競馬で結果を出してきた。予想の範疇だったと言える。

※以下、JRAのレース映像より引用。
一方、そこまでスタートから進んでいかない馬もいた。アドマイヤテラだ。雨の影響だったのか、武豊騎手の選択かは定かではないが、後方からの競馬となった。
実際のところ、前半7Fは12.9 – 11.3 – 11.8 – 11.9 – 12.0 – 11.6 – 11.8と上り坂を含む割には時速60km以上を維持するラップ。前世が時計とも言われる武豊騎手ならこのペースを見て引いた線もあるだろう。

一方でクロワデュノールはもともとゲートから序盤の追走力に強みがある馬。自然と好位を取ってしまうので、前半1~2F時点ですでに先団につけている。
このペースで先団につけるのが果たして正解だったかと言われると微妙なところではあるが、北村友一騎手はクロワデュノールに騎乗する時は特に強気な競馬を徹底している節がある。
普段は結構控えめに乗って、脚をためる競馬をするイメージではあるのだが。
それはさておき、日本近代競馬でセオリーとされているポジション理論がある。
いわゆる「強い馬と上手い騎手の後ろは好位になりやすい」。この理論は主に金色のマスクマン氏(@keiba_maskman)が氏の回顧シリーズでよく挙げている。詳しくはそこで見てほしいところだが、要は、強い馬が必要なところで動いて進路ができるので、その後ろについていけばおのずと自分の進路を作れる、というものだ。
自分で動いて進路を作れる強い馬。今回ならまさにクロワデュノールがそれにあたる。当然上手い騎手はその後ろにつこうとするのがセオリーとなる。
実際、画像では赤丸のように、クロワデュノールの後ろにアドマイヤテラと武豊騎手がつけようとしている。ただ、それを防ぐ者もいた。それがシンエンペラーとその鞍上だった。

シンエンペラーの鞍上といえば坂井瑠星騎手だが、さすがにアメリカからワープするわけにはいかない。今回は未来のダービージョッキー・岩田望来騎手がそつなくカットしていた。
最近特にこの騎手は上手いと感じる騎乗をするが、今回もそんな感じだった。
結果的にはクロワデュノールが下り坂で力んで前に行ったことで、好位を取り切ることはできなかったが、このカットが武豊騎手とアドマイヤテラの道中に影響を与えた面はあると思う。

下り坂半ばの隊列はこう。クロワデュノール-アクアヴァーナル-シンエンペラー-アドマイヤテラの並び。この時点ならアクアヴァーナルが好位。それにしても外に有力馬が寄った形だが、おそらく実力馬陣営は雨による影響で内ラチ沿いは避けたかったのではないか。
今回、武豊騎手が内より外にこだわっているように見えたのも、そういう背景があったようにも思う。
次にレースが動いたのは、1~2コーナー間。

先団後ろ辺りにいたサンライズソレイユがだんだんと上がっていったのだ。個人的にはサンライズソレイユと鞍上池添騎手には10年前のカレンミロティックのようなインベタの競馬をと思っていたのだが(あの時もキタサンブラックの真後ろにつける競馬だった)、この進出を見て厳しいかな、と考えを改めた。
この区間は13.2 – 13.1と緩んでおり、その分かかった線と見ている。

向正面に入ったところでサンライズソレイユは2番手。この時点で前に入られたホーエリート、エヒトは苦しい。サンライズソレイユの動きで前の馬はきれいに掃除されたと言ってもいい。
結果的に差し追込決着になった要因として、これは大きかった。

そして向正面ではもう一つ。アクアヴァーナルが少し外に膨れて、その隙を狙ってヘデントールがクロワデュノールの後ろに入ることができた。ヘデントールが掲示板に食いこめたのはこの動きが大きい。
前の馬が進路を作ってくれれば、それについていくだけで距離ロスを押さえつつ回ってこれるのだから。
直線でも進路を作れていいことが非常に多い。やっぱ強い馬の後ろはいい。
一方で武豊騎手とアドマイヤテラは外を回す形に。ロスを押さえられそうなヘデントールと比べるとやや不利だ。

好位を奪われた格好のアクアヴァーナルにとって幸運だったのは、クロワデュノールが仕掛けはじめて、外に出てきたことだろう。あとはついていけばクロワデュノールが先団を掃除してくれるし、しかも進路まで開く。正直この時点でアクアヴァーナルは好勝負になりそうだ。
もう一つ。この勝負所で最後方ヴェルテンベルクはにわかに武豊騎手の後ろにつけようとしている。馬も騎手も強いとなれば当然そこも好位。しかも武豊騎手は百戦錬磨かつ前世は時計。仕掛けどころを間違えない。
ついていくだけで問題ないという寸法だ。

最後の勝負所。アドマイヤテラがしっかりヘデントールの進路を蓋している場面。
これは当然。なぜならヘデントールは前年の覇者。フリーにしては実力を発揮される。それにヘデントールがアクアヴァーナルについていく、あるいはその外に行くにしても、アドマイヤテラはそのさらに外を回らなければならない。
それは明らかにロスが大きい。だから蓋をしなければならない。がりがりの削り合いだ。
そしてその後ろを最後方でフルに脚を溜めたヴェルテンベルクがついていく。進路はアドマイヤテラが作ってくれる。しかも前崩れの展開で流れは向いている。あとは外に出して差しきるだけだ。
よく競馬は最後の直線ではなく、直線に入るまでの過程で決まると言われる。
その所以が凝縮されている状況といっていいだろう。
10年前か、14年前か そして父の魂が宿った直線
まだ存命だけど。そうとしか思えない直線だった。
直線半ばでクロワデュノールが抜け出し押し切る形。ただ、やはりクロワデュノールの脚は上がっていた。それもそのはずだ。
前の馬にとっては苦しい展開で、クロワデュノールも先団付近の外を周り続けている。どう考えても息切れする。
それでも前を守り切ったのは規格外の能力ゆえだろう。
のちのトークショーで北村友一騎手も語っていたが、直線半ばで脚が上がっており、明確に失速しているのがわかる。まあ能力が高くても距離適性自体はさすがに3200mでは少し長い。
しっかり脚を溜めていたヴェルテンベルク、距離適性だけならメンバートップといっていいアドマイヤテラが肉薄するのも当たり前だ。
ターフで見ていた私はおそらく押し切ったと最初は思ったが、ゴール直前の写真を見ると、わずかに抜け出されているようにも見えた。
だから、14年前に単勝万馬券を出したビートブラックの再来と諦めた。そこまで着差は離れていないけれども。

諦めた私はもう仕方ないから、これで乗り替わりとかになるのかな、とめちゃくちゃ悔しく思いつつも、松若騎手みたいな若手が勝つなら、とも思った。それでもやるせない気持ちがいっぱいだったが。
どう考えても一番強い競馬をしたし、仕掛けたタイミングも決して悪くはなかったからだ。こんなんで乗り替わりと言われるのか、て。あんなクソみたいな連中の思惑に負けるのかな、て。
そのままパドックに向かったが、次のレースに備えようという建前で半ば逃げる気持ちだった。
着く直前で歓声が聞こえた。どっちかわからなかった。
正直負けてても不思議ないな、と思った。だから、見た時は言葉にならなかった。

多分雨だと思うんだけど、ちょっと視界歪んだ。もう変な声ばかり出た。
すぐにインタビューを聴きに戻り、それはもう張り裂けんばかりに「おめでとう」と「ユウイチ」と叫びまくった。同じ気持ちのファンは多かったと思う。
正直あの写真判定はきつかった。それと同時に、こんなこともあるのかと思った。
予想が外れたことや、伏兵の食い込みとか、そんなことはどうでもよかった。
クロワデュノールと北村友一騎手が勝ったこと。そして強さを証明したこと。
もう誰にも文句を言わせない春古馬二冠。もはや世紀末覇王時の和田竜二元騎手のように一回も負けられない戦いが続くんだろうけど、とにかく勝ち続けてほしいと思う。
結果的に、2cmのハナ差での決着。10年前、同じ淀の地で現地した私も思い出さずにはいられない。
魔王とも思えたキタサンブラックの覇道の第一歩も、10年前の天皇賞(春)だった。その時もキタサンブラックは2着カレンミロティックとハナ差の接戦。
あの直線もいつまでも続くような死闘で、一瞬は前に出られていたはず。それをキタサンブラックの驚異的な二枚腰でねじ伏せたのだ。
そのキタサンブラックの魂が、クロワデュノールに宿ったのだと、今では思う。
当時のキタサンブラックの鞍上はレジェンド武豊騎手。彼はあの伝説のレースを勝ち、そして今回、それを後方から見守った。
もしかすると、北村友一騎手のジョッキーカメラで聞いた「勝った?」の言葉には、その当時の思いも含まれていたのかもしれない。
最後に、こちらを見ていただきたい(展望記事より抜粋)。

ダービー馬もダービージョッキーもやはり最後は運ですべてを引き寄せた。
圧倒的な力を持ったキタサンブラックも、ダービーは勝てなかった。しかし息子はダービーを勝つほどの強運も持っている。そして馬体も父に似てきた。
我々は新たな覇道を目撃しているのかもしれない。
ともあれ願わくは前人馬未到の春古馬三冠を。
このタッグで誰にも届かない頂に上がり、強さとともにすべてを黙らせてほしい。
ライター名「夜桜 ほとり」
バイオテクノロジー系の分野で大学院卒業後、何を血迷ったのかSEに転身。でもなんか違うと思い、競馬メディアの編集に。現在は編集を脱退、馬を中心としたフリーの物書きとして活動中。
※当サイトの記事で書かれている予想は、的中を保証するものでもありません。馬券は自己責任でお願いいたします。
国内専念が妥当と思うが、実際はどうなるか。アホ集団どもがまーた無理難題言ってきたら、まあもうあいつら干せば? の気持ちである。そんなくだらんことに人や馬を巻き込むな、ての。


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